新作 黒羽ドレス-プロローグから- Vol.1
こちらでは 新作 黒羽ドレスの製作プロセスやデザイナーの思考の一部を綴っています。
しばしお付き合いいただけますと嬉しいです。
【Prologue】
黒羽ドレスは内にある感情や様々なインスピレーションのカケラが重なり生まれました。その中の一つに祖母と祖母の大事にしている着物があります。祖母は2年前に病に倒れました、今も眠りの中にいます。コロナで会えない日々が続き、いつからか祖母を想うと祖母が大事にしている着物の事を思い出す様になりました。
それは泥によって染められた、潔い絣の柄が入った大島紬。
祖母はひとり親として働く母に変わって小さい頃から母親代わりをしてくれました。自分が子供を持ち、忙しさに打ちひしがれている時には改めてその逞しさを感じています。強いけれど、軽快で、どこか現代的。そんな祖母の性格と、きっとあの着物の、粋でモダンな佇まいが私の中ではリンクしているのです。
真っ黒ではない 霧のかかった様なすみ黒色、凛とした強さの中にも、肩肘張らない抜け感が感じられる。そんな感情とも情景ともつかないものが頭に浮かび、その着物の様な年齢を重ねた女性だからこそ似合う雰囲気のある黒を探しに行こうと思ったのです。
【Theme 】
気分が落ち込み、暗く闇の中にいる様な時、生まれてくる気付きや感覚があります。真に大切なものに気付いたり、暗闇の中だからこそあぶり出される強さや美しさがあると思うのです。苦難や経験を重ねている大人の女性の強さとしなやかさは、暗闇によって強く輪郭を描きます。Kurohaは、暗闇=黒によって美しく表現される大人の女性に向けたドレスです。
【Textile & Effect 】
LiTAは自然を纏うをテーマに天然素材や天然染色による服作りをしており、今回は開発当初から念頭にリネンが浮かんでいました。リネンのざっくりとした風合いは、黒に程よいリラックス感を与えてくれるからです。そして黒羽ドレスの黒、品はあるけど堅苦しくなく、どこか抜け感のある 粋な黒という、ターゲットの”すみ黒”をどの様な手法で得るかを考えました。
まず候補に考えたのが天然染色による炭染めの黒。試験をしていく中でターゲットに近づけるには、色の安定性や縮率、コストともにハードルが高く 染色工場さんに大変ご尽力頂きましたが 結果今回は違う選択肢を取る事になりました。
次に考えたのが、黒染めの生地をウォッシュ加工により表情を変える、という方法。ウォッシュ加工により、リネン特有の硬さを取り除き風合いを柔らかくしつつ、既存の黒からフェードさせ”すみ黒”を得たいという目的の基、2種類の素材でバイオウォッシュとフロスト加工で実験を重ねていきました。最終的には下写真リネンコットンの素材でバイオウォッシュ×タンブラー仕上げにより柔らかくふっくらした風合いに仕上がりました。黒色も少しフェードされ、重さの取れた春夏らしい”すみ黒”色が得られています。
16番の太番手で織られた素材。ヘリンボン組織で表面感があり麻特有のナチュラルなルックスが特徴。
《テスト過程》
【素材】リネンコットンヘリンボン 【加工方法】左:バイオウォッシュ×タンブラー 右:フロスト加工 ※バイオウォッシュ→酵素の力で繊維を柔らかく仕上げる加工で経年変化を得た様な風合いが特徴。※フロスト加工→経年変化の様な自然なフェード感が得られる加工。https://uchida-d-works.co.jp/processing
【素材】テンセルリネンツイル【加工方法】左:バイオウォッシュ×タンブラー 右:フロスト加工
《デザイン過程》
左側素材:それぞれ違う加工方法や素材により、黒の発色も様々。
トワルチェックの様子、シーチングで両身組まれたものを確認。
黒羽ドレスは内側に在る、感情や頭に描かれた情景を辿るようにして、それらを素材やデザインに落とし込み、形にしていく作業をしていきました。そして服としての着心地、機能を携えるのは勿論のこと、大人の女性の身体に寄り添うパターン設計と仕様になっております。数々の工程を経て職人縫製により整然と仕上がった黒羽ドレス。こだわりのつまったデザインについては、次回に続きたいと思います。
最後までお読み合いいただき、ありがとうございました。
2022.03.16 chisato