新作 黒羽 ドレス – コンセプトとデザインディティール – Vol.2
前回の記事(黒羽ドレス-プロローグから)に引き続き、今回は 新作黒羽ドレスのこだわりのつまったデザインについて綴っていきたいと思います。しばしお付き合いいただけますと嬉しいです。
【Design Concept】
1950年代にディオール が発表したHライン、スマートでエレガントな出で立ちをインスピレーションに”すみ黒”色やアシンメトリー等、着物のエッセンスを加えることで、クラシックな中にも どこか和の匂いを感じる折衷性のあるデザインにしました。ネックにダーツを取り なだらかにした肩、構築的な袖、ベルトで絞ったウエストとやさしく膨らむヒップライン、ダーツや切り替えを効果的に使い曲線的なフォルムにこだわりました。
ドレス自体のシルエットは楽な着心地が得られる様 ゆとりを持たせて設計していますが、ウエストベルトをきゅっと縛り シェイプさせる事によりヒップラインがやさしく膨らみ、メリハリのあるシルエットに変化させる事ができます。冒頭で及れた Hラインをコンセプトにしつつも、身体がリラックスする楽な着心地にしています。
バストからヒップラインにかけてゆとりを持たせたサイズ設計
また着物からインスピレーションを得た”すみ黒”色はリネンコットンの素材にウォッシュ加工をかけることで、フェードした浅い”すみ黒”の発色が叶えられました。こなれた表情に仕上がったリネンコットンの素材と掛け合わせることで、クラシカルで上品な雰囲気を匂わせつつも、肩の力の抜けた小粋なカジュアルドレスに仕上がっています。
【Detailing】
ドレスのフロント部分はアシンメトリーの比翼開き。内側には留め具として打ち掛けボタンとループが付いており裾まで開閉することが出来ます。衿元はボタンを留めるとコンパクトなラウンドカラー、ボタンを外し衿としてもアレンジ可能です。アシンメトリーカラー、ウイングからーとアレンジ自在になっています。
フロント比翼あき
コンパクトラウンドカラー、アシンメトリー、ウイングカラーとマルチウェイな衿のデザイン。
袖はダーツや切り替えで構築的に作られたコクーン スリーブ。袖丈は6分位の丈感が目安となります。肩のラグラン線から続く脇下部分の袖の内側にスリットが入っており、袖口のスナップボタンを閉めると丸みのあるコクーン袖、開けるとケープ丈になるという2wayデザインです。袖の内側にスリットがあることで、暑い夏の日でも通気がよくなり涼しく着用できます。また重ね着も映えるデザインなので、秋口にはドレスの中にインナーを着てオーバードレス風に、フロント部分を全部開けアウター感覚の羽織りとしても活用できます。春から秋まで楽しんで頂けるシーズンレスなデザインです。
コクーン袖とケープの2wayデザイン。開きがあっても二の腕部分はしっかり隠れる設計。
ドレス1枚さらりと着るのも、中にインナーを着ても◎ 着回し力が高く春から秋まで楽しめるデザイン。
フロントを開けて軽いアウターの様に。レイヤード スタイルの羽織りとして。
スカートは大人の気品を感じられるすっきりとしたストレートライン。後ろには「インバーテッドプリーツ」と「あおり止め」といった、トレンチ コートで見られるひだとボタン留めのディティール。ボタンを外すと足さばきが良くなり動きやすくなります。
ウエストにはドレスと同素材で作られた帯状のサッシュベルト。ウエストベルトできゅっと絞るとクラシカルな装いに、ベルトを外すとミニマルになり、クリーンな雰囲気がアップします。
サッシュベルトのアレンジで多様な着こなし。
縫製面、裏仕様にもこだわりが。縫い代処理はロック始末ではなく、折り伏せ縫いやパイピング始末といった良質なJKやアウターに使われる方法を用い、服の裏側まですっきり仕上げています。手間のかかる仕様ですが、ざっくりとした麻の素材でもほつれにくくなり耐久面が上がること、また着脱地の見た目も良くなることで、服の価値観をアップさせてくれるでしょう。
整然とした仕上がり。
【素材】
16番の太番手で織られたリネンコットン(リネン 55%/コットン45%) のヘリンボン素材。リネン特有のふし感と、ヘリンボンの組織が生み出した表面感、麻特有のざっくりとしたナチュラルなルックスが特徴です。美しいフォルムを生み出せる程よい肉感がありつつも、天然素材らしいさらりとした肌触りなので、重さはなく清涼感も併せ持ちます。リネン特有の硬さを取り除く為、生地の段階でバイオウォッシュ 加工とタンブラー仕上げをほどこし、膨らみのある柔らかい風合いへとアップデートしました。また生地加工をする事で、黒の発色をフェードさせイメージにあった”すみ黒”色を得ると共に、春夏らしい抜け感のある黒が実現しました。
【最後に】
2回にわたって黒羽ドレスについて書かせて頂きました。デザインディティール1つ1つに意味と役割があり、それを具象化する様々な技術があります。デザインの背景となるものにはアートや歴史、音楽やカルチャー、人の想いなど、あらゆるものがインスピレーション源となり得ます。こうやって制作過程やデザイナーの思考の一部を綴ることで洋服をきっかけに、その奥にある面白いもの、素敵なものを伝えていけたらと思っております。
最後までお読み合いいただき、ありがとうございました。
2022.03.17 chisato